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大阪地方裁判所 昭和55年(ワ)2266号 判決

原告

広原勝朗こと孫省奎

ほか一名

被告

大綱商運株式会社

主文

原告両名の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告両名の負担とする。

事実

第一  原告両名代理人は、「(一) 被告は、原告孫省奎に対し、四六〇三万九二六三円及びうち四一八五万三八七六円に対する昭和五二年五月二六日から、うち四一八万五三八七円に対する昭和五六年一二月二三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を、原告孫光聖に対し、三三〇万円及びうち三〇〇万円に対する昭和五二年五月二六日から、うち三〇万円に対する昭和五六年一二月二三日から各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。(二) 訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告代理人は、主文第一、二同旨の判決を求めた。

第二  原告両名代理人は、請求原因として、次のとおり述べた。

一  事故の発生

昭和五二年五月二五日午後一時一五分頃大阪府藤井寺市国府二丁目一番一号先道路(以下「本件道路」という。)上において、訴外森政行(以下「森」という。)の運転する大型貨物自動車(泉一一か三〇二五号。以下「被告車」という。)が走行中の原告省奎運転の自動二輪車(泉ま九七五二号。以下「原告車」という。)を追越した際、被告車の荷台左前部付近を同原告の右腕もしくは原告車のハンドル右端に接触させたため、原告車は、進路前方のガードレールに衝突したうえ、被告車左後輪付近に衝突した。

仮りに、被告車が追越しに当り、原告省奎もしくは原告車に接触していなかつたとしても、被告車が原告車に近接して追越したため、原告車は進路前方をガードレールと被告車にふさがれ、危険を回避する方法がないまま前記のとおりガードレール衝突後、被告車左後輪付近に衝突したものである。

二  責任原因

被告は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していた。

三  原告省奎の損害

1  受傷、治療経過、後遺症

(一) 受傷

原告省奎は、本件事故により、頭部外傷Ⅲ型(脳挫傷)、頭蓋底骨折、右肩甲骨々折、右肘部及び右肩部挫創の傷害を受けた。

(二) 治療経過

(1) 入院

昭和五二年五月二五日から同年七月三〇日まで六七日間清恵会病院

(2) 通院

昭和五二年七月三一日から同五三年一二月八日まで清恵会病院(実治療日数八一日)

昭和五二年八月二四日、同年九月一日、昭和五四年一〇月五日湖崎眼科

昭和五二年八月三〇日近畿大学医学部付属病院

(三) 後遺症

前記受傷の結果、原告省奎には、(1)右半身不全麻痺、(2)右動眼神経麻痺、(3)精神的には自発性の欠如、統合能力の低下の各症状が残存し、これら症状は昭和五三年一二月一日固定した。なお、自賠責保険の関係では、前記(1)及び(2)の症状が後遺障害等級六級にあたると認定された。

2  治療関係費

(一) 治療費 (小計) 一三九万一七七三円

(1) 清恵会病院分

入院中の分 一二八万六二七二円

通院中の分 五万五九〇一円

(2) 湖崎眼科分 三万五五〇〇円

(3) 近畿大学医学部付属病院分 一万四一〇〇円

(二) 文書料(診断書等) 五〇〇〇円

(三) 入院雑費 六万七〇〇〇円

入院中一日一〇〇〇円の割合による六七日分

(四) 入院付添費 (小計) 二五万二二〇〇円

(1) 入院中職業付添婦が付添つた分、五万一二〇〇円

(2) 入院中家族が付添い、一日三〇〇〇円の割合による六七日分 二〇万一〇〇〇円

(五) 通院付添費 一七万円

一日二〇〇〇円の割合による八五日分

(六) 通院交通費 三九万一〇〇〇円

一回往復四六〇〇円の割合による八五回分

3  逸失利益

原告省奎は、前記後遺障害のため、その労働能力を少くとも六七パーセント喪失したものであるところ、昭和五三年賃金センサス第一巻第一表産業計、企業規模計、学歴計全年齢平均給与の年収額は三〇〇万四七〇〇円であり、前記症状固定日当時一八歳で、その就労可能年数は四九年間と考えられるから、その逸失利益を年別のライプニツツ式により年五分の中間利息を控除して算定すると、三六五七万六九〇四円となる。

4  慰藉料

(一) 入通院分 一五〇万円

(二) 後遺症分 一〇〇〇万円

原告省奎は、事故当時一七歳八月の少年であり、前記後遺障害によつて将来にわたり受ける精神的苦痛は想像を絶するところであり、むしろ死亡以上の苦しみを受けるものであるから、これを慰藉するには少くとも右金額が支払われねばならない。

5  損害の填補

原告省奎は、自賠責保険から、傷害分一〇〇万円、後遺障害分七五〇万円の計八五〇万円の支払を受けた。

四  原告光聖の損害

慰藉料 三〇〇万円

同原告は、本件事故により、最愛の息子原告省奎が、当初は危篤状態が続き、その後長期間の入通院、また将来にわたつて重度の後遺障害を負うに至り、その精神的苦痛のため、自営の養豚業に当初従事することもできず短期間のうちに六〇頭の豚(一頭五万円)を失つたうえ、原告省奎に右家業を継がせたいとの希望も打ち砕かれ、事業への意欲も減退し、原告省奎の将来を考える度に心を痛めている。従つて、原告光聖は、息子原告省奎の死にも比すべき精神的苦痛を受けたものであるから、これを慰藉するには少くとも右金額が支払われなければならない。

五  弁護士費用

以上により、原告省奎は四一八五万三八七六円、原告光聖は三〇〇万円をそれぞれ被告に対し請求し得るものであるところ、被告は右各賠償義務を認めず、全く誠意を示さないので、原告両名は弁護士たる原告両名訴訟代理人にその取立てを委任し、報酬として右各賠償額の一割を支払う旨約した。従つて、被告に賠償を求める弁護士費用の額は、原告省奎につき四一八万五三八七円、原告光聖につき三〇万円である。

六  よつて、被告に対し、原告省奎は、四六〇三万九二六三円及び弁護士費用相当額を除く四一八五万三八七六円に対する本件事故の日の翌日である昭和五二年五月二六日から、弁護士費用に相当する四一八万五三八七円に対する判決言渡の日の翌日である昭和五六年一二月二三日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告光聖は、三三〇万円及び弁護士費用相当額を除く三〇〇万円に対する右昭和五二年五月二六日から、弁護士費用に相当する三〇万円に対する右昭和五六年一二月二三日から各支払ずみまで同法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  被告代理人は、請求原因に対する答弁並びに主張として、次のとおり述べた。

一  答弁

請求原因一記載の事実中、原告両名主張の日時場所において、森運転の被告車後輪付近に原告省奎運転の原告車が衝突したことは認めるが、その余は争う。なお、本件事故態様は、後記二の1記載のとおりである。

同二記載の点は認める。

同三記載の事実中、5記載の事実は認めるが、その余は知らない。

同四記載の事実は争う。

二  主張

1  免責

本件事故は、原告の一方的過失によつて発生したもので、森及び被告には何らの過失もなく、かつ被告車には構造上の欠陥又は機能の障害もなかつたから、被告には損害賠償責任がない。

即ち、本件事故は、被告車が本件事故現場付近道路を車の流れに従い、時速三〇キロメートルの速度で、東から西へ直進していたところ、原告車が右道路南側歩道寄りを前方にガードレールが付設されていて行き止まりになつているにもかかわらず、高速で無理な追越しをかけ、被告車らの進行するセンターライン寄りの車の流れに割り込もうとしたが、その際、原告省奎のハンドル操作の誤りにより、右ガードレールに激突し、その勢いで転倒し、被告車左後輪に接触したため発生したものであつて、原告省奎の一方的過失によるものである。

2  過失相殺

仮りに、免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については、原告省奎にも前記のような重大な過失があるから、損害賠償額の算定に当つては大幅な過失相殺がなされるべきである。

3  損害の填補

原告省奎が自認しているもののほかに、被告は同原告に対し、二〇万円を支払つた。

第四  原告両名代理人は、被告の主張のうち、1記載の事実について、被告車に構造上の欠陥又は機能の障害がなかつたことは知らないが、その余は争う。2記載の点は争う、3記載の事実は認める、と述べた。

第五  証拠関係〔略〕

理由

一  事故発生の状況について

1  原告両名主張の日時場所において、森運転の被告車後輪付近に原告省奎の運転する原告車が衝突する事故が発生したことは当事者間に争いがない。

そして、右の争いのない事実に、成立に争いのない甲第二号証の一、二、乙第二ないし第四号証、証人森政行の証言により成立の認められる乙第一号証、被写体が本件事故現場付近の写真であることについては争いがなく、その余については弁論の全趣旨により被告主張のとおりの写真であると認められる検乙第一ないし第六号証、証人植田重光、同森政行、同石田信之の各証言並びに弁論の全趣旨を併せ考えると、次の事実が認められる(但し、証人植田重光、同森政行、同石田信之の各証言中、後記信用しない部分を除く。)。

(一)  本件事故現場は、藤井寺市内をほぼ東西(奈良方面から堺方面)に通じる、歩車道の区別のあるアスフアルト舗装の本件道路上で、付近の道路状況は別紙図面のとおりであること、現場付近の本件道路は、車道がセンターラインにより東西各行車線に分けられ、西行車線は、現場東側約一五〇メートルの区間では、右図面のとおりセンターライン寄りの比較的路面の滑らかな幅員三・四メートルの部分と歩道寄りの路面のやや荒れている幅員三・二メートルの部分(両者の境は、路面の状況によつて明らかであり、道路標示等によるものではない。以下便宜的に「北側部分」「南側部分」という。)からなつているため、六・六メートルの幅員を有するが、現場西側では、民家が張り出し、南側部分が行き止まりとなつていて、北側部分と同一幅員となり狭くなつている関係で、右図面のとおり通行車両の誘導を兼ねて、ガードレールが設置されていること、本件道路は、現場付近では、直線であるが、東側奈良方面は事故現場の東数十メートル辺りから、道路が右側(南側)に湾曲していること、また現場付近の最高速度は時速四〇キロメートルに制限されていること、なお、事故当時付近路面は乾燥していたこと。

(二)  森は、被告車(車体の長さ一〇・〇六メートル、幅二・四九メートル、高さ二・九メートル)を運転し、本件道路西行車線北側部分を、車の流れに従い時速四〇キロメートル前後の速度で、右車輪がほぼセンターラインに沿うように進行し、本件事故現場に差しかかり、自車運転台が同車線南側部分の行き止まりとなつている辺りを通過し終えたとき、突加左斜後方で「ガチヤン」という衝撃音を聞き、直ちに左バツクミラーを見たところ、原告省奎が原告車諸共自車の方に倒れ込んでくるのを認めたので、ブレーキを踏み自車をいつたん停止させたうえ、後方道路上を確認したが、その際、同原告が路上に転倒している姿が見られたため、後続車の進路妨害にならないよう自車をなお前進させ、歩道上に乗り上げるようにして停車させたこと。

(三)  石田信之は、四トン車を運転し、被告車の後方を、約一〇メートルの車間距離をとり、同車と同一速度で追従進行し、本件事故現場付近に差しかかつた際、自車左斜前方約一五・三メートルのガードレール北西端付近において、原告省奎が原告車諸共右ガードレールに衝突し、次いで被告車後輪付近に倒れ込んでいく状況を目撃したこと。

(四)  事故発生後、西行車線道路上には、別紙図面記載のとおり、〈1〉ガードレールの手前東約五メートル辺りから西に向けほぼ直線状(右ガードレールの寸前ではやや北西に向つている。)の約七・七メートルの横滑痕が鮮やかに印象されていたこと、右横滑痕は、後記〈2〉認定事実及びそのつき具合からみて、原告車が安定した状態のもとで印象されたものではなく、車体を進行方向に向け右方に傾斜した状態となりながら、車輪タイヤの右横部分が路面と接して印されたものと推認されるスリツプ痕跡であること、〈2〉また、右横滑痕先端北側付近に、三条の擦過痕があつたこと、これらはいずれも原告車車体右側のステツプ等の突出部分が路面と接触したと認められる痕跡であること、〈3〉さらに、ガードレールの北西端やや北寄り路上には、原告車が最終的に転倒した位置であることをうかがわせる油跡(ガソリン跡)が残つていたこと、なお、ガードレールの北西端には、原告車のタイヤによると認められる痕跡が残つていたこと、一方、原被告車の車両の状況としては、原告車については、車体右側のハンドル・ステツプには擦過した痕跡が、被告車については、後輪は二輪で、そのうち、前の左側車輪タイヤに擦過痕がそれぞれ認められたこと(もつとも、被告車には右痕跡のほか、原告車との接触ないし衝突を示す痕跡は一切なかつた。)。

以上の事実が認められ、証人森政行の証言中には、被告車の速度は時速三〇キロメートルであつた旨の前記認定に反する供述部分が存するけれども、右供述部分は前顕証人石田信之の証言と比照してにわかに信用できないし、証人石田信之の証言中には、原告車はほぼ正常に立つた状態でガードレールに衝突した旨の前記認定に反する供述部分が存するけれども、右供述部分は瞬時の目撃状況を述べたにすぎないうえ、前記(四)で認定した現場に遺留された痕跡等と比照してにわかに信用できないし、なお、証人植田重光の証言中には、被害者のバイクが追い越して行つたように見えたと石田信之が言つた旨の供述部分が存するけれども前顕証拠、就中前顕石田信之の証言と比照してにわかに信用できないし、他に前記認定を左右するに足りる証拠はない。

右認定事実によると、原告省奎の運転する原告車は、別図記載の横滑痕の開始地点から、車体を進行方向に向かつて次第に右側に傾斜させながら、ほぼ直進し、ガードレールの手前で、車首をやや北西に変える形となつたが、そのまま右ガードレール北西端に衝突し、その反動で、最終的に油跡のある付近に右向きに転倒し、その際、被告車の後輪二輪の前輪左側車輪タイヤにも衝突したことが認められる。

2  ところで、原告らは、被告車の荷台左前部付近が原告車のハンドル右端もしくは原告省奎の右腕に接触したため、原告車がガードレールに接触するに至つた旨主張し、これに副うかのように、原告省奎は、甲第三号証並びにその本人尋問において、同原告は原告車を運転し、西行車線北側部分南端を時速約四〇キロメートルで進行し、同車線南側部分が行き止まりとなつている辺りから東へ約三一メートルの地点(ガードレールの東端辺りから東へ約二四メートルの地点)に差しかかつた際、同方向に向けセンターライン寄りを進行してきた被告車を右後方約二メートルに認めたので、ハンドルを若干左に切つて約四・九メートル進行したところ、被告車の運転台と荷台の連結部分が原告車ハンドル右端に接触したため、進行方向左方に滑走するに至つた旨、供述している。

しかしながら、前記1で認定した事実及び前掲甲第二号証の一、二によると、事故直後実施された実況見分においても、被告車の運転台と荷台との間には原告車との接触を示すような痕跡は見当らなかつたこと、原告省奎が原被告車の接触地点と指摘する付近路面にも、原告車の左方への横滑りを示す痕跡が一切残つていないことが認められるのみならず、仮に、原告省奎の供述どおりとすると、原告車に対し、真うしろからというよりは、右側から心持ち左に切つた同車のハンドルの右先端に、原被告車の重量差(前掲乙第四号証、証人森政行の証言、原告省奎本人の尋問結果によると、原告車が重量そのものは定かでないが、三八〇CCの単車であるのに対し、被告車は当時荷台部に積荷がなかつたとはいえ、車両重量六一九〇キログラムの大型車であることが認められる。)等から考えて、相当強力な衝撃が加えられたことになるにもかかわらず、安定の良いとはいい難い原告車が直ちに左に転倒することなく、原告省奎を乗せて二〇メートル余り走行し、しかも右からの衝撃を受けていたのに、右に大きく傾きながらなおも追い抜かれた被告車とほとんど変らぬ速度で進行を続けたということになつてしまうわけで、そのような事態は、通常考え難いことといわなければならないから、原告省奎の右供述部分はにわかに信用し難いといわざるを得ない。なお、前記1の(四)で認定したとおり、原告車右側のハンドルに擦過痕が認められ、また、証人李金英の証言により成立の認められる甲第四号証によると、原告省奎は本件事故により、右肩あるいは右肘部に挫創の傷害を負つたことが認められるけれども、前記1で認定のとおり、原告省奎は原告車諸共右に転倒したのであるから、右証拠のみをもつては、原告らの前記主張を認めることはできないし、他に原告らの前記主張を認めるに足りる証拠はない。

3  また、原告らは、仮定的に、被告車の近接した追越しが原告車転倒の原因である旨主張する。

しかしながら、本件全証拠を検討してみても、右主張を認めるに足りる証拠は見当らず(原告省奎自らも、前記のとおり、右主張と異なる供述に終始している。)、かえつて、前記1認定のとおり、森はセンターラインにほぼ右車輪が沿うような形で進行していたのであるのに対し、別図記載の横滑痕の形状(前掲甲第二号証の二添付写真第二ないし第六号参照)からみて、原告車は右痕跡をほぼ東方に延長した線上を進行してきたものと推測され、従つて、原・被告車間には、控え目にみて一メートルを若干越える間隔があつたものと考えられるうえ、証人森政行、同石田信之の各証言によると、同人らはいずれも前方の注視を格別怠つたわけではないのに事故の発生する寸前まで原告車を認識していないことが認められ、右事実に前記1で認定した原・被告車の衝突した部位や被告車の速度等を併せ考えると、原告車は被告車とほぼ並進あるいはやや左斜前方(被告車運転台から視界に入らない程度と考えられる。)を進行していたものと考えられるのであつて、原告らの右主張は到底採用できない。

なお、原告らは、その主張に副う証拠として甲第二〇号証、第二一号証及び同第二二号証の一ないし八の各記載並びに証人李金英、同孫光同の各証言中の、「原告車を森の運転する車両が追越しした。」旨の記載部分及び供述部分を援用するけれども、これら証拠は、その性質内容にかんがみ、にわかに信用することができない。

二  責任原因について

1  被告が被告車を所有し、これを自己のため運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。従つて、被告は、自賠法三条本文により、同条但書所定の免責の主張が認められない限り、本件事故による損害を賠償する責任があるものといわねばならない。

2  そこで、被告の免責の主張について判断する。

(一)  前記一記載の認定、説示によると、本件事故は、原告車が、本件道路西行車線南側部分を進行中、進路前方にガードレールが存したため、急ブレーキを踏んだことから、ハンドルをとられたかあるいは体のバランスが崩れたかによつて、車体が大きく右に傾斜し、車輪タイヤがグリツプを失つて右に横滑の状態となつて進行し、遂にガードレールに衝突し、その反動で転倒するにより発生したものであつて、右原告車の転倒が被告車の接触ないしは同車の運行が不当な誘発となつたものでないことが優に推認できる。そうだとすると、原告省奎は、前方を十分注意すべきところ、それを怠つたか、あるいは本件道路の状況(とりわけ、南側部分が行き止まりになつていること)、や二輪車の特性を考慮し、安全な速度で走行すべきことは勿論、自車の速度に応じた適切な急制動措置をとるべきところ、これを怠つたかのいずれかの過失により、本件事故を発生させたものといわねばならないから、被害者に過失があつたことになる。さらに、上述したところからすると、森にも、本件事故の際、多少左側を走行する車両に対する注意を欠いていたことは否めないが、並進態勢にある車両の運転者としては、もともと、自車進路上に転倒してくる並進二輪車があるようなことは通常予測し得ない事柄であるといわなければならないのみならず、事故時の原告車の動向に照らすと、森が、仮りに、原告車の動静に注意を払つていたとしても、西行車線南側部分行き止まりに設置されたガードレールに衝突後、急に自車左後部付近に倒れ込んでくる原告車との衝突ないし接触を避ける適切な方途はなかつたものと認められるから、右の点は本件事故の発生とは法的な因果関係がないものといわねばならないし、本件にあつては、他に森が注意を払うことによつて事故の発生を回避し得たと認められるような事情は一切うかがわれない。してみると、森には事故の発生そのものに関し、過失はなかつたものといわざるを得ない。

また、以上のとおりである本件事故の状況に鑑みると、被告も本件事故の際、被告車の運行に関し注意を怠らなかつたものというほかはない。

(二)  前掲甲第二号証の一、二、証人森政行の証言によると、被告車には、本件事故の原因となるような構造上の欠陥、機能上の障害はなかつたことが認められる。

従つて、被告の免責の主張は理由があるものと認められる。

三  以上の次第で、原告両名の本訴請求は、いずれも、その余の点について判断するまでもなく失当であるので棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条をそれぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 弓削孟 佐々木茂美 長久保守夫)

別紙図面

〈省略〉

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